最終的に、3711人の乗客乗員のうちおよそ2割が新型コロナに感染したダイヤモンド・プリンセス号。医療支援に携わった医師たちが目にしたものとは(写真:PhotoAC)
豪華客船、ダイヤモンド・プリンセス号は2020年1月、横浜を出港しました。香港や台湾などを経由し、2月4日に再び横浜に戻る予定だったものの、その直前、香港で下船した中国人乗客が新型コロナウイルスに感染していたことが判明。4000人近い乗客乗員を乗せたまま、横浜港に停泊して約1か月にわたる検疫を余儀なくされました。船内では連日、乗客・乗員の感染が判明、最終的に感染者は712名、死者13人に。正体の分からない感染症に加え、巨大な密室に様々な国籍の人々が押し込められた状況下、医療支援に携わった医師たちは何を目撃したのでしょうかーー。

ことは思う通りには進まず

ダイヤモンド・プリンセス(船内の医療支援)には2月11日から、前橋赤十字病院の中村光伸チームも参入していた。本人を入れて男性ばかり5人。看護師2人、薬剤師1人、事務職員1人からなるチームである。

武漢の帰国者支援に派遣要請があって以来、参加に踏みきれなかった中村も、これだけ大きな問題が持ち上がった以上は、加勢せざるを得ないと腹をくくっていた。

すでに陽性者が続々と確認されており、病院へ搬送しなければならない。現場から患者を広域に搬送するとなれば、やることはいつもの災害現場と同じで、いわばDMAT(Disaster Medical Assistance Team=災害派遣医療チーム)の「お家芸」である。

「ヴィヴァルディ」(と呼ばれる船内のメインダイニング)に設けられたDMATの指揮所を拠点として、近藤の補佐役のような位置づけで活動を開始した中村の目に、現場は心配になるような状況に映った。政府と船会社、そしてDMATをはじめとする支援者など、各方面の関係者が、一つの方向を向いてオペレーションを進めることができているのだろうか、と。

前日の10日、近藤が船内入りしてから、DMATと自衛隊医官らからなる診療班は、まずは重症度や緊急度の高いカテゴリーIの患者を洗い出すべく、客室への往診に優先して取り組んでいた。それで何とか11日朝までに、発熱して自ら電話してきた乗客に対しては、一通り診察して回ることができた。

だが、ことは思う通りばかりには進まなかった。