歳を取ることについて、どちらかというとマイナスなイメージを持っている方は多いのでは。しかし「老いることは、生物が進化の歴史の中で磨いてきた戦略である」と、静岡大学大学院農学研究科教授の稲垣先生は話します。人気エッセイストとして、著書も多数執筆している先生が、注目する生きものを取り上げながら、その「老い」について考えてきます。今回取り上げるのは、縁起が良いことの象徴である「エビ」です。
若々しさが尊いわけではない
お正月の料理に、エビは欠かせない。エビは、めでたい食材の代表格である。そもそも、どうしてエビはめでたいのだろうか?
エビは、曲がった腰と長いヒゲを持っている。その姿が、まるで老人のようであることから、「長寿の象徴」とされてきた。老人の姿が、めでたいとされたのである。
エビは、漢字で「海老」と書く。つまりは「海の老いたもの」なのである。虫偏に「老」と書く「蛯」という字もある。「蛇」や「蛙」、「蟹」などに「虫」が使われるように、昔はけものや鳥、魚以外は、すべて「虫」であった。そして、海老は、年老いた虫と表されたのだ。
若々しいことが尊いのではない。年老いて見えることが尊かったのだ。