緩やかな流れの池や川に棲むコイは、急流を遡る泳力はない。それなのに、どうして、竜門を登り切ったのは、コイだったのだろう――(写真提供:photoAC)

歳を取ることについて、どちらかというとマイナスなイメージを持っている方は多いのでは。しかし「老いることは、生物が進化の歴史の中で磨いてきた戦略である」と、静岡大学大学院農学研究科教授の稲垣先生は話します。人気エッセイストとして、著書も多数執筆している先生が、注目する生きものを取り上げながら、その「老い」について考えてきます。今回取り上げるのは、「コイ」です。

コイはめでたい生き物である

「竜門」は、中国の黄河にある滝である。その滝を登った魚は竜になると伝えられている。これが「登竜門」である。この故事から、「鯉の滝登り」という言葉が作られ、コイは立身出世のシンボルとして、端午の節句の鯉のぼりのモチーフとなっている。

実際には、さまざまな魚が、登竜門に挑んだとされている。サケやアユなど、急流を遡り、竜門を登りそうな魚はいくらでもいそうなものだ。

しかし、そこを登り切ったのは、数ある魚の中でも、コイだけだったのだ。だが、緩やかな流れの池や川に棲むコイは、急流を遡る泳力はない。

それなのに、どうして、竜門を登り切ったのは、コイだったのだろう。