全16巻で約1400品『伝え継ぐ 日本の家庭料理』
日本の食文化は、地域によって気候風土が大きく異なる自然豊かな日本列島で育まれてきました。食が多様化するいま、1960~70年頃に食卓にのぼった全国のふるさとの味をまとめた『伝え継ぐ 日本の家庭料理』という全集が話題になっています。企画編集を行った日本調理科学会会長(当時)の香西みどりさんの解説とともに、いわしやさば、かつおなど比較的広い範囲で食べられてきた魚介類を使った料理の一部を紹介します
高度経済成長期を境に、日本では台所の環境が大きく変わりました。電気や水道、ガスなどのライフインフラが整い、2口コンロのあるダイニングキッチンが登場。1960年時点で炊飯器は約28%、冷蔵庫は約9%と言われた世帯保有率も、10年後にはどちらも90%以上と伸びました。
和食以外のメニューも多く家庭に入ってきた分、消えていく料理もあるでしょう。後世に残すべき味は残さなければと、2012年から約360人の日本調理科学会会員が47都道府県の各地域で地元の方々にご協力いただき、聞き書き調査を始めました。
時には一緒に作り、何度もお話をうかがったうえで、目分量で作られてきた家庭料理をどなたでも再現できるよう、数値化してレシピにすることがこの全集の目指した点で、まさに会員たちの長年の努力の賜物でもあります。
たとえば「すし」の巻を見ると、魚介類の使い方によって地域性が出たり、同じ「ばらずし」の名称でも、すし飯の味や使う具材、見た目が違ったりするのが一目でわかります。特にすし飯の味の傾向を全国で4タイプに分類できたのは、興味深い結果になりました。
全16巻で約1400品を収録しましたが、収めきれなかったものも多く、これをどなたでも検索できるようアーカイブ化することを、23年までの目標としています。