竹中伊都子さん(仮名・愛知県・主婦・68歳)は、夫が末期の食道がんと判明。「なぜ早く気づけなかったのか」と自分を責めてもあとの祭り。抗がん剤と手術で疲弊してもなお明るく優しい夫を、全力でサポートし続けた日々を振り返ります――。
撮った画像には明らかに影が見えた
あっ、来た。また来た。鼻がツンとするのと同時に、目に涙があふれる。1日数回、泣くのが趣味のようになってきた。「いつでもどこでも泣ける人選手権」があれば、私は上位入賞できる。
いっそのこと、夫の顔も声も忘れてしまえればどんなに楽だろう。もともと私としては、夫が先に逝き、自分は看取ったあとに死ねたらいいなと思っていたので、その願いだけはかなった。
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「旦那さんは食道がんです。胃の下のリンパに転移があり、ステージIV。完治は難しいと思います」。3年前、医師に告げられたとき、テレビドラマでよく見るような、ガーンといったショックはなかった。とにかく子どもたちに知らせねば。医師の指示通りに動かねば。やりかけた仕事も断らねば。そして大きな不安が頭をよぎる。夫は死んじゃうのかな……。
その数ヵ月前、食欲が減退して痩せた夫を連れて、近くのクリニックへ行った。逆流性食道炎との診断で、ピロリ菌除去の内服薬をもらい、ひと安心。「2年に1回は、がん検診を受けようね」と夫婦揃って健康診断に行ったのが、がん発見のきっかけだ。画像を見た医師から、「がんじゃないと思うけど、心配なら紹介状を書きますよ」と言われたのだ。
画像には明らかに影が見える。素人の私もただごとではないと直感。すぐさま紹介された総合病院へ向かった。医師は「がんです。うちでは手術が難しいのでがんセンターを紹介します」とその場で電話してくれた。手術はせず、抗がん剤治療の入院を告げられる。
なぜ一緒に暮らしていて気づいてあげられなかったのか。しかもステージIVだなんて……。自分を責めてもあとの祭り。夫の世話に専念すると決めた私は仕事を辞め、全力でサポートすることに。夫から「お母さん、ずいぶん優しくなったね」とからかわれた。