イギリス在住のブレイディみかこさんが『婦人公論』で連載している好評エッセイ「転がる珠玉のように」。Webオリジナルでお送りする30.5回は「いつもと違うクリスマス」。英国のクリスマスは、プレゼントや食べ物、飲み物など、ものが大量に消費される華やかなシーズン。しかし、今年はいつもと様子が違って――

レストランの入り口には「閉店します」

クリスマスといえば、英国の人々が湯水のようにお金を使うシーズンだった。子どもができてからは、ママ友たちがいくつ子どもへのクリスマスプレゼントを買っているのか(2桁というご家庭もあった)を知って驚いたし、食べ物、飲み物だって12月にはとんでもない量が消費される。街なかを歩けば昼間っからオフィスの集まりや友人同士のクリスマスランチでアルコールを口にした人たちが真っ赤な顔をして歩いているし、週末のショッピングモールはプレゼントを買う人々の群れでまっすぐ歩くことができないぐらいだった。

が、今年は様子が違う。

予約がいっぱいで入れなかったレストランの入り口には「閉店します」の白い貼り紙。人があふれている店といえば1ポンドショップ(日本で言う100均)ぐらいのものだ。これは本当に12月の英国の街の風景なのだろうか? ロンドンのような大都市はまた違うのかもしれないが、地方の街の今年のクリスマスは、しょぼさが際立っている。

無理もない。英国はコスト・オブ・リヴィング・クライシス(生活費危機)の真っただ中である。物価高騰のため、国内の世帯の半数が食事の回数を減らしているというニュースは日本でも報道されていた。昼間っからワインを飲んでクリスマスランチなど楽しむ余裕のある人はもはやほんの一部だ。