里田愛子さん(仮名・大阪府・無職・73歳)は、「児童養護施設に預けている息子たちを迎えに行きたい」と話す男に押し切られ、結婚。やっと子どもたちを迎えることができましたが――。
今日から、私があなたたちのお母さんよ
家に着いてすぐ、私の手編みのベストを着せてあげると、嬉しそうに笑う2人。引き取って本当によかった。子どもたちには、本当の母親ではないことを伝えたうえで、「今日から、私があなたたちのお母さんよ」と言って聞かせました。
顔が傷だらけの長男に、「どうしたの?」と聞くと、「おやつを大きな子が取ったからケンカした」と言います。少ししかないおやつを取られまいと、必死で頑張ったんやなと思ったら涙が出ました。「いっぱいおやつを食べさせてあげるからね」と、頭と顔を撫でてやりました。私が産んだわけではないのに、とてもかわいく、愛おしい。この気持ちはなんだろう。
次男はおとなしく、されるがままで、おしゃべりもあまりしません。施設から急に連れてこられて、とまどっているのかもしれない。とはいえ、私も新米の母。ちょっとでも私に懐いてくれるように、家に慣れてくれるようにと、散歩したり、スーパーや公園に行ったり、一緒の時間を過ごすようにしました。
教えたいことは数えきれないほどあり、それは2人にとっても楽しく珍しいことばかりだったようで、すぐに私に懐いてくれました。
しかし父親には懐かず、銭湯に行っても一緒に入るのが嫌で泣き出してしまう。施設の先生は女性が多く、男の人に慣れていないのだろうと思い、いろいろ努力してみましたが効果がありません。
そもそも夫が、子ども好きではないのかもしれない。その証拠に、遊んだり、話しかけたりをまったくしません。「3年も施設に預けていたのだから、そのぶん愛情を子どもに返さないと」と言っても、仕事から帰って、ご飯を食べると寝てしまいます。もういい。私だけで育てる。
ある日、近くの公園へ遊びに出た兄弟を迎えに行った時のこと。雨が降った翌日だったからか、滑り台の下が水溜まりになっていて、滑っては水溜まりにバシャンと飛び込み、また滑っては飛び込みと、2人は泥だらけになって楽しそうに遊んでいます。真っ黒で、誰が誰だかわからない。
叱る気にもなれず、「今日は楽しかったね。3人だけの秘密ね」と、みんなで大笑いしながら帰りました。子どもって天使みたい。かわいくてしょうがない。のびのび育ってくれてありがとう。