「久しぶりに実家に帰ると、穏健だった親が急に政治に目覚め、YouTubeの右傾的番組の視聴者になっていた」――そんな光景が今日もこの国のどこかしらの家庭で繰り返されている、と話すのは、作家・古谷経衡さんだ。近年、シニア層もネット動画を視聴するようになった一方、ネットへの接触歴がこれまで未熟だったことから、ネット上でのヘイトが昂じてトラブルが頻発。「実はあなたの隣で起きているかも」と警鐘を鳴らす古谷さんから見た「シニア右翼」の実態とは――。
なぜ日の丸をペイントして君が代を歌ったのか
私が大学に入ったのが2001年である。ちょうど9・11で世界が激動した時代だった。
私は落第生だったので学部を7年も留年したが、私の同級生は4年で単位を取って2005年に就職することになった。その状況はというと明らかに現在よりは厳しいであろう。
更に私よりもう少し上の1980年・79年生まれは、2002年前後に就職したので一般に氷河期時代とか超氷河期時代とか呼ばれた。
それに比べればより若い青年層は、「まずまず」現況に満足が行く程度の環境であったので野党に投票するという政治行動が抑止された。
それがために現状維持で以て自民党に入れたにすぎず、そして結論を言えば若年層の投票率が低すぎて、僅かに投票所に行った若年層の投票行動を以て、「若年層は自民党を支持している」とは言えない。ましてそれは政治的右傾化を意味していない。
一方2002年の日韓ワールドカップ共催大会の際、W杯をバーや居酒屋で観戦する若者が躊躇なく頬などに日の丸のペインティングなどをして君が代を斉唱することから、この現象を「ぷちナショナリズム症候群」(香山リカ氏)と観るきらいもあった。
しかし同じくこの時大学2年生だった私の周辺の級友も、日本代表のブルーのチームカラーで“仮装”し、京都の河原町や大阪の道頓堀に続々と集結し、やはり日の丸をペインティングしていた。では彼らは所謂政治的右派だったのかといえば全く違っている。
彼らは雑誌『正論』や『諸君!』や『WiLL』を読んでいたのか。『産経新聞』の熱心な購読者であったか。全く違っている。むしろといおうか、彼らはそもそも『正論』という雑誌の存在すら知らなかった者が圧倒的多数である。