うちのお風呂場の、風呂おけにじゃーとお湯をためるための蛇口の上の、お湯の口と水の口の間の管に(名前がわからなくて苦労して説明しています)、スポンジが一個、はさんである。
もう何十年もはさんである。
お風呂のお湯を抜くときに、そのスポンジで風呂おけの中をざっとこすっておくと、次のお風呂の前の風呂おけ洗いが楽になる。そのためのスポンジである。
それは黄色くて、オバQのような体形で(こないだ出てきたばっかりだ。どうしてこんなに思い出すのだろう)、目と口のところに穴があいている。笑うでもなく、悲しむでも怒るでもなく、ただそこに存在して、あたしや家族たち(ここ数年は誰も来ない)が湯船につかるのを見守ってきたのである。
何十年もそこにいたからもうぼろぼろだ。みなさんもスポンジの古くなったのは見知っているはず。ダマができ、あちこち破れてヘタっているのだ。
買い替えたいなあと、見るたびに思っていた。どこで売ってるのかわからない。近所のスーパー、別のスーパー、生協、近所のホームセンター、別のホームセンター、探してみたが見つからない。
探すうちに、似たようなスポンジなら見つけた。アクリル不織布で、ペンギン型だったりおさかな型だったりして、クチバシや尻尾がとんがっていて、それが縁やらコップの底やらの汚れを取る。
何度も買ってみたのだが、取り替えた後、あたしはどうしてもあの顔をミスしてしまって、ミス、miss、I miss you の miss、日本語でなんと言ったらいいのかなあ、「いなくて寂しくて会いたくてたまらない」という感情か。それで捨てようと思っていた古スポンジを元に戻した。
ペンギンもおさかなもとてもかわいいが、目が合わないのだ。あの顔は、目をそむけずにあたしを見て、何も主張はせず、ただ見守るのだ。