(出典:『伝説の校長講話――渋幕・渋渋は何を大切にしているのか』より)
「共学トップ」の超進学校・「渋幕」(渋谷教育学園幕張中学高校)と「渋渋」(同渋谷中学高校)。渋幕創設からわずか十数年で千葉県でトップの進学校に躍進させた田村哲夫氏は現在、同理事長・学園長を務めるかたわら、中1から高3までの生徒に向けた「校長講話」を半世紀近く続けており、その内容は現代社会に生きる幅広い年代の視野も広げてくれる。中学1年生に向けて行った、生涯学び続けることの大切さ、楽しさを説いた講話の内容とは――。

アリの社会と人の社会の違い

皆さんには、先日梅棹忠夫さんのノートを図書室で見てもらったと思います。見ていない人はいますか? いろんな工夫をしていましたね。前回も話しましたが、人間は一人一人が全然違う生き物だということを知ってほしいと思っています。それは科学的に証明されていることです。地球上に最初の細胞が誕生したとみられるのが約38億年前。その細胞は膨大な時間をかけて変化し、やがて多細胞生物が生まれてきます。

君たちも37兆ぐらいの膨大な数の細胞が一体になってできていますね。一人の人間のすべての細胞に同じDNAが入っているのですが、それは人によって全部違っていて、生命活動の設計図なのです。

もう一つ気づいてほしいのは、人間は社会をつくらないと生きていけないということです。地球上の生き物で、人間の社会と似ているのがアリの社会だそうです。研究者によるとアリの社会も分業になっていて、えさを集めるアリや、敵に攻撃されたら防御を専門にするアリがいるそうです。でもアリは、それぞれ違う生き方を好んでいるわけではありません。

人間は、一人一人がみんな違うことを納得して社会をつくろうとしている。社会を継続しないと、人間は生きていけません。毎日生活していく中で、自分がつくったものが何かある? 何もないでしょう。社会を維持するために人間は知性を使うんです。学問的に私たちはホモサピエンスといいますが、サピエンスとは「知性」を意味します。