作家で僧侶の家田荘子さんは、不倫、少女売春、風俗、高齢者の性など光の当たっていない世界を取材してきた。そのようななか出会ったのは30歳を過ぎて性経験がない女性、大人処女。彼女たちは、なぜそれを選択したのか。今回は、由紀さん(仮名)の価値観と生き方を記したノンフィクションを3回に渡ってお届けします。彼から「いいかげん、1回……」といわれた由紀さんは――。
肉体関係はなくても仲は抜群に良かった
同居を始めても、彼は求めてこなかった。そればかりか、「ちゃんとお洋服着て寝るんだよ」と言うくらいの人だった。
寝る時は鍵付きの別々の部屋。朝が早い彼が、「ゆっくり寝てていいよ」と言うので、由紀さんはその言葉に甘えて早起きしなかった。といっても、けっして淡泊な日常生活を送っていたのではなく、2人の仲は抜群に良かった。
「エッチしたいというより彼は、2人でイチャイチャするのが好きだったんです。胸の近くをツンって押してきたことはありましたけど、そこまで。彼はとにかく一緒に並んで、私にくっついていたかった人。料理を一緒に作ったり、すごい喜んでくれるから膝枕をしてあげたり……。それだけで満足してたみたいでした。キスも、『おやすみ』の時、ほっぺにチューだけでした」
イチャイチャが好きというよりも、そこまでしか許してくれなかったから、イチャイチャだけで彼は我慢していたのではないかと私は思ったが、由紀さんは、「イチャイチャ好きなだけの彼」と本気で信じていたようだ。