いいかげん、1回……

そして彼のほうも、許可が下りるまで「男」に豹変することはけっしてなかった。

2人は温泉旅行が好きで、たびたび行ったが、同じ部屋に泊まる時があっても、進展することはなかった。旅行中、同じ布団で寝ても、「明日も楽しく遊ぼうね」「どこへ明日は行こうか」といった楽しい会話をしたあと、手をつないで仲よく寝るだけでおたがい満足していたと由紀さんは言う。

『大人処女ーー彼女たちの選択には理由がある』(著:家田荘子/祥伝社新書)

「2人ともお酒が好きで、いっぱい飲んでるから、いつも気持ちよくすぐ寝ちゃうんですよ」と、由紀さんはカラカラと楽しそうに笑うが、もしかしたら彼は寝つけず、由紀さんの寝姿を見て何かしていたかもしれない。

コタツに入っている時、足でツンツンと由紀さんの足を刺激しながら「いいかげん、1回……」と言ってきたのは、同居して1年も経ってからのことだった。

「何ぃ?」と答えた由紀さんに、彼はツンツン以上することはなかった。由紀さんは34歳になっていた。

「いいかげん、1回……」から、固かった由紀さんの決心がようやく緩(ゆる)み始めた。

「何か理由があって私がこだわっているんだろうってことは、彼も感じ取ってくれていたみたいです。母親の亡くなった34歳になったし、してもいいかなって気持ちになってきたんです」

しかし、そこからさらに半年間を何ごともなく過ごすことになる。