厚生労働省の「簡易生命表(令和3年)」によると、2021年の日本人の平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳で「長寿」と言えそうです。それでもいつか訪れるのが「親の死」。一方「親の死はただでさえ参ってしまうのに、見送る世代も気力体力が衰えはじめている。加えて葬儀に法事、相続、お墓の手配など、手続きはあまりにも膨大かつ期限付きのものも多いので、めくるめく試練のようなもの」と語るのが作家でエッセイストの横森理香さんです。その横森さんいわく「遺影をどうするか、事前に考えておくことは大事」とのことで――。
告知をしていなかった母
私の母の場合、三か月と余命宣告されたが告知はしていなかったので、葬儀に関する本人の希望を聞くことはできなかった。だましだまし、最後のお正月を家で迎えてもらい、再入院して二か月生きた。発病から六か月、七十三歳の生涯を閉じた。
しかし本人も、これはどうもおかしい、自分は死ぬのではないかという勘は働いていたようで、年末に古い手紙や写真の整理をしていたようだ。死後、見てほしくないようなものだったのだろう。
年末に電話で話していて、
「あんたが住んでた頃、久江さん(母の姉)とニューヨークに行ったときの写真が出てきたのよ。みんな若かったね。私も久江さんも、あんたも勝行さん(私の夫)も」
としんみり言っていたので、いやだなぁと思い、
「なんでまたそんな、写真の整理なんかしてるの?」
と聞いてしまった。母は片づけや掃除が大の苦手で、年末だからといってそんなことはしたこともなかったのだ。
「いやね、ほら、年末だから、へへへ」
と笑ってごまかしたが、もうわかっていたのだろう。