人の心なんて簡単に変わる

“自分の心は、他人というものに対し、これほど憎しみを抱けるものなのかと驚いた。負の感情ばかりが頭の中を満たし、それはまるで重油のように黒く、粘性を持っていた。”

物語の中で、アキヒロがある人物に抱く感情は、当時の私が持て余していた負の感情に近かった。「寂しい」が「恨めしい」に変わった瞬間、幼馴染との思い出までもが汚泥に侵食されていくようで、そのことが、ひどく悲しかった。

幼馴染への感情が変化するのと同時に、不定期で自宅を訪れる男性を、私はいつの間にか「待つ」ようになっていた。はじめは“誰でもいい”と思っていたはずなのに、彼との時間が少しずつ積み重なるたび、「傷の舐め合い」以外の何かが芽生えはじめていた。

それが愛情だったのかは、今となってはわからない。ただ、少なくとも彼と過ごす時間は、私にとって苦痛なものではなかった。

人の心なんて簡単に変わる。絶対に変わらないと信じていたものさえ、呆気なく壊れる。もしも私がこの人を好きになっても、それは“永遠”ではないのだろう。逆もまた、然り。そう思いながら彼の腕に包まれて眠る夜、何度も幼馴染の夢を見た。