「今日、わざわざガソリン入れに来たのはね、大事な用事があったから。ああいう連中だって車を使えばガソリンも入れに来るだろう? 何もおかしなことじゃないから、それを誰かに見られたって、話をしていたって僕に迷惑を掛けることもないからだよ。だから、直接来たんだ」
「どんな用事があったんですか?」
「それはね」
 ちょっと悲しそうに息を吐いた。
「同級生のね、ずっと仲が良かった奴が死んだんだ」
「友達、ですか」
 そう、親しい友人だったって。
「いやもちろんそいつは普通の男だよ。向こう側の奴じゃない。普通の会社員だった。病気でね。ガンだったみたいだ。まだ五十代なのにな」
「若いですよね、まだ」
 五十代は、俺たちにしてみるとすごい年寄りだけれど、世間的にはまだ充分若いっていうのはわかる。死んでしまうなんて、早過ぎるって。
「長坂はね、そいつの葬式にも行けないから代わりに香典を頼むってね。僕に持ってきたんだよ」
 お香典か。僕はまだ友人の葬式なんか経験してないし、そもそもお葬式にも行ったことがない。
「え、でもお香典を頼むってわかんないですけど」
 電話一本掛けて、後で渡すから頼むよっていう感じで済むんじゃないかって。
 言ったら、うん、って店長も頷いた。
「普通は、そんなふうにできるね。でも、あいつが渡したい香典の額が半端じゃなかったんだ。普通の百倍ぐらいの感覚で」
「えっ、すごいですね」
 香典に幾ら包むのか全然わかんないけど、その差はすごい。