「それは、あれですか。長坂さんとその亡くなった人は、店長よりも親しい間柄だったからってことですか」
「それもあるけれど、残された奥さんと子供のためにってことだね。子供はまだ小さいんだあいつんところは」
 それは確かに大変だ。親のいない子供が苦労するのは、身にしみてわかってるつもりだし。
「でもそのお金って、あの人がヤバいことをして稼いでいるお金なんでしょう」
 店長が唇を歪(ゆが)めた。
「そういうことになるだろうね。だから、あいつが頼んできたのはそのお金を小分けにして、他の友人たちのそれぞれの香典に加えて、気づかれないようにしてやってほしいってことなんだよ。その話を今日しに来ていたんだ」
 亡くなった人が、ヤクザからたくさんの香典を貰っていたっていうのが、誰にもわからないようにするためか。亡くなった人はわからないけど、残された奥さんとかが変に、なんだっけ、邪推とかされないように、か。
「なんか、長坂さんって普通にいい人じゃないですか」
 ヤクザなんて、どんだけひどい人間なんだろうって思っていたんだけど。
「そういう男なんだよ。長坂はね。そして、どんなに汚いことで稼いだ金でも、何も知らない他の人にとってはただのお金。正しく使ってもらえればそれでいいんだよ。悟くんも前に、お母さんの送ってくる金は、客を酒でだまして稼いでいるみたいな金だって嫌がっていたことあったよね」
 ありました。そういうことがわかるようになったときに。ホステスなんて客をだまして金を稼いでいるみたいなもんだって。
 そういうことか。
 でも、お金は、お金だから。