「長坂さんと、夏夫の母親って、なんでそういうことになってしまったのか、店長は知っているんですか」
 少し首を傾(かし)げた。
「僕が長坂とよく会っていたのは、高校ぐらいまでだからね。志織(しおり)さんと出会った頃のことは、まるで知らないんだ」
 そうか、そうですよね。
「夏夫くんが、言っていたんだろう? どうしてあんな男とくっついて俺を産んだんだ、とかそういう感じで」
「そうです」
「話を聞いたら違うとは思うけど、夏夫くんはそれでグレたり、何ていうか非行に走ったりとかはしていないんだよね」
「してませんよ。ただ、どうしてそんなことになってしまったのか、理解できないって感じです」
 俺も、わからない。皆わからない。
 バイト・クラブに来ている皆、そうだ。親がどうしてそんなことになってしまったのか、理解できないって思ってる。
「悟くんも、そうだもんな。お母さんのことを」
「まぁ、そうですね」
 納得はしているけれど、理解できない。
 なんでそんなふうになってしまっているのか。
「でも、今日話した長坂の話、聞いたらそんなに悪い男じゃないじゃないかって、思うだろう?」
「思います」
 友達のことをちゃんと思える男。自分が悪いことをしているってわかっている。そして、何だっけ、わきまえている?
「長坂の場合も、家庭環境が複雑でね。そのせいなんて言ったら、もっと複雑な家庭環境でも立派に育って、ちゃんとした人だってたくさんいるんだから、言いわけにしかならないだろうけどさ」
「そうなんですか」
「話せば長くなっちゃうし、そうなっているのは全部あいつの選んだ道だけどね。あいつは高校中退して、組に入ったんだ。そのときのことはよく覚えている」
「話したんですか。そのとき」
 大きく頷いた。
「もう会うこともない、ってね。街で会っても声を掛けるな。俺なんかいなかったことにしろってさ。迷惑掛けるようなことは一切しないからって。でも、俺みたいな人間じゃないと解決できないようなことに遭ったら、いつでも言ってこいってね」
 ヤクザじゃなきゃ、解決できないような問題になんか巻き込まれたくないけど、そうなってしまうこともあるかもしれない。
「そういう奴なんだ。そして、ひとつ確実に言えることは、あいつは志織さんのことを大事にしているし、夏夫くんのこともちゃんと息子として大切に思っている。それこそお金だって、充分なものを渡しているはずだ」
 そんな話もしていたっけ。
 でも、ヤクザの金で暮らしたくないって夏夫は頑張っているんだけどさ。