「だからまぁ」
 店長が、少し笑みを見せた。
「さっきも言ったけど、夏夫くんとそういう話をするのは構わないし、今日のことも話してもいいけれどさ。長坂のことを、他の人と話したり気にしたりは絶対にしないように。決してかかわりになってはいけない類(たぐ)いの人間だからね」
 かかわりになってはいけない人間。
「どうして、そんな人間がいるんですかね。この世に」
 まただ。
 そんな話をするつもりなんか全然なかったのに、口をついて出てしまった。
 店長が、驚いた顔をしている。ちょっと首を捻った。
「どうしてなのかね。人間っていうのがそういう生き物なんだろうって思うしかないのかな」
「そういう生き物って?」
 うーん、って唸(うな)る。
「スズメって、益鳥(えきちょう)だって知ってる?」
 益鳥。
「虫を食べてくれるから、人間の役に立ってるってやつですよね」
「そう。スズメは稲につく虫を食べてくれるから、人間にとっての有益な鳥だから益鳥。でも同時にスズメは実った米を食べてしまう害鳥でもあるんだよ。そういうものなんじゃないかな人間も」
 ある人にとっては役に立っても、違うところにいる人には害になる人、ってことか。わかるような、わからないような。
「そういう人たちが役に立つって思ってる人たちも、普通の人たちにとっては害になるような人なんじゃないですかね」
 うーん、ってまた唸った。腕を組んで、考えてる。
「簡単には答えのようなものを出せない話だね。考えてもしょうがないことだって言えるし、それを考えることが有意義になっていく人もいるだろうし」
「そうですよね。考えてもしょうがないですよね」
 そうだね、って言って少し笑う。
「夏夫くんは、元気でやってるのかな?」
「元気ですよ」
 あいつは、いつでも元気だ。
 落ち込むことってほとんどないって言ってる。そもそも自分の生まれがヤクザの息子ってことでどん底みたいなものだから、それ以上落ちようがないから後は上がるだけ、なんて言ってる。
 でも、きっとバイト・クラブの中では、いちばんさみしがり屋だと思う。仲間が増えるのが楽しくて嬉しくてしょうがないみたいだ。