譲さんのケース

譲さん(仮名・76歳)もその中のひとりです。

一人住まいになって、15年以上になりました。奥さんが長年の闘病の末に亡くなってから、嫁いだ娘二人も家に近づかなくなってしまいました。

『あなたが独りで倒れて困ること30』(著:太田垣章子/ポプラ社)

その理由は二つ。

一つは、昭和スタイルの「誰の金で生活できてきたと思っているんだ」的な態度を、この令和の時代に妻ではなく娘たちにしてしまい、彼女たちから敬遠されてしまったこと。

二つめは、譲さんの家が片付いておらず、それを娘たちに見られたくなくて、娘たちを自分から遠ざけてしまったこと。

これらに加えて、娘さんたちも子育てに忙しく、最近では、娘家族たちとは年に数回、外で食事をするだけになってしまっていました。

譲さんは、大学で建築を教えていました。そのため家の中にはたくさんの本や資料があり、それらが山のように積まれているため、今にも崩れ落ちそうです。

傍からすると、その資料っていつ見るの? 捨てても良いのでは? と思ってしまいますが、譲さん自身は「どこにどの資料がある」か、ちゃんと分かっています。捨てるという選択肢がないため、どんどん床が見えなくなってしまっていました。

さらに、ゴミを分別して捨てるのが面倒なため、どんどん家中に溜まっていくのです。これはゴミ屋敷にありがちな状況です。ゴミを出すにしても、家の前に出すのがルールなため、ある程度、出せる時間が限られてしまいます。

つまり、あまり早く出しすぎると、カラスにいたずらされたりする可能性があり、ご近所の方は大きなゴミバケツに入れて出しているのですが、収集が終わった後、そのゴミバケツは片付けなければなりません。譲さんは、どうしてもそれが面倒なのです。

そのまま出しっぱなしにしていたら、ゴミが取り除かれて軽くなったバケツが風で倒され、かなり遠くまで転がっていってしまったこともありました。その時は、ご近所の方がバケツを譲さん宅に戻してくれましたが、大きな張り紙で「きちんと管理してください」と書かれてしまいました。

その一件以来、譲さんはゴミをそのまま出すようにしたのですが、そうするとゴミをカラスに散らかされてしまって、またご近所からクレームを受けるというマイナススパイラルに陥ってしまいました。

こうしたゴミ出しのストレスを避けることが、結果として家の中のゴミを溜めてしまうことに繋がったのです。

ここまで来てしまうと、家の中がこの先片付いていくことはなく、ただただゴミは増えるだけになってしまいます。

いちばん良いのは、業者にお金を払って処分してもらうことなのですが、ゴミ屋敷にしてしまった人の大半はそれを人に知られたくないのです。そのため不衛生な状態が続いていながら、ゴールが見えないという状況に陥ってしまいます。