もう一つ、当時はまだ運動というのは健康な人だけが行うものという考え方が主流でした。病気予防のトレーニングをしたり、腰や膝に痛みを抱える人が体操をするなど、考えも及ばない時代だったのです。

そこへ神奈川県の予防医学協会から、「検診で病気が見つかった人に、病院での治療と並行して自分でもできる方法を伝えたい」というお話をいただきました。そこでお伝えした体の動かし方が、いつしか「きくち体操」と呼ばれるようになったのです。

同じ頃に神奈川県の消防学校や看護学校の授業でも「きくち体操」を教えるようになりました。そのときに看護学校の先生から言われて印象的だったのが、「これは医師にはできない発想だ」と言われたことでした。

私たちは長い間、体のこと、健康のことは医師に任せておけばいいと教わってきましたよね。たとえば膝や肩が痛くて病院に行っても、薬などによる対症療法が中心で、痛みの原因や、再び痛めないような体の使い方まで掘り下げては教えてくれない。

痛いところがあるから病院に行く、薬局で湿布を買う、マッサージ屋さんで揉んでもらう。そうやって自分の体を「人任せ」にしたままで本当にいいのでしょうか。

自分の体のことは自分が一番わかっていなければいけないのです。そうでないと、「生きている」ことに自覚が持てない。逆に言えば、自分の体に向き合い、自分で体を変えていくことで生き方も選んでいくことができるのです。

 

若い頃より今のほうが元気!

「きくち体操」では、必ず守らなければならない約束事があります。それは絶対に、無意識で体を動かさないこと。よくある流行りのエクササイズで「○○をしながら簡単にできる」といったものとは、まったく別物だと考えてください。

脳に梗塞が起きると、起きた部分の体の部位が動かせなくなることからもわかるように、体を動かすためには脳からの指令が必要です。たとえば手を前に出して、パーに開いてみてください。

今度はしっかりと目を開いててのひらを見つめ、「限界まで広がれ!」と脳で意識しながら開いてみましょう。きっと最初に開いたときより、指と指の間が大きく広がったのではありませんか? 指先まで血液が流れて、てのひらが赤らみ、ジンジンと感じてこないでしょうか。無意識で動かすのと、脳で意識して動かすのとでは、これほど大きな違いがあるのです。