イギリス在住のブレイディみかこさんが『婦人公論』で連載している好評エッセイ「転がる珠玉のように」。今回は「15秒の名声」。オランダに行ったときのこと。滞在して3日目の朝、宿泊したホテルはなにやら物々しい雰囲気で――。(絵=平松麻)

旅先での騒動

オランダに行ってきた。ロンドンからアムステルダムまでの飛行時間は1時間ちょっと。つまり、めっちゃ近いので、体調のいい連合いも同行することになった。

体調がいいとは言え、あまり疲れさせてもいけないと思い、アムステルダム中央駅のすぐ近くの小さなホテルに泊まることにした。

3日目の朝のことだった。朝食に行こうとすると、廊下に警官が立っていて、カフェの近くのトイレがテープで塞がれている。朝食会場にも、警官が何人も出たり入ったりして物々しい雰囲気だ。

「何かあったのかな......」

「ロビーのほうにも警官がたくさんいたよ」

とか言いながら朝食を終えたのだったが、部屋に帰り際、ついに我慢できなくなったらしい連合いがウェイトレスに尋ねた。

「何があったんですか?」

「逮捕者が出たみたいで」

「宿泊者ですか?」

「さあ......」

彼女も何が起きたかよくわかっていないようだ。そのまま部屋に戻り、身支度をしてホテルから出ようとすると、まだ玄関の外に十数名の警官が立っているのが見えた。

「何があったんですか?」

連合いは懲りずに受付の若い女性に尋ねた。

「指名手配されていた容疑者が、今朝、1階のトイレで逮捕されたんです」

「何の容疑者?」

「シリアルキラーです」