初の化学療法を受けたあと、「いつまで、どこまで頑張ればいいんだろうか」と思ったそうで――(写真提供:Photo AC)
国立がん研究センターの調査によると、2021年にがんで死亡した人は38万1,505人にのぼるそうです。三大疾病の一つである「がん」ですが、俳優の小倉一郎さんもまた、肺がんの「ステージ4」と診断されました。1度は余命宣告されるも、見事復帰を果たした小倉さん。初の化学療法を受けたあと、「いつまで、どこまで頑張ればいいんだろうか」と思ったそうで――。

化学療法後、初の仕事

人生初の化学療法を終えました。吐き気や脱毛といった副作用は、少し遅れて出る可能性も十分あります。それから数日間は、少し緊張して過ごしました。気持ち悪いのは勘弁だし、いくら「カツラ上等!」とはいえ、やはり髪が抜けないに越したことはナイ。

でも、仮に抜けたとしても、化学療法室と同じ2階にはコンビニや美容院があって、ウィッグなどの脱毛対策グッズが気軽に手に取れますし、1階には、治療中に生じた外見上の変化に関する悩みを相談できる「アピアランスサポートセンター」もあります。

ウィッグなどには購入費助成制度もあるんだそうですよ。

幸い、激しい吐き気や脱毛に見舞われることもなく、カツラで役者としての新境地をアピールする僕の野望も幻となりました。

3日後の5月29日には、化学療法後、初の仕事を再開できました。最初の病院で余命宣告を受ける直前に撮影していた映画『火面 嘉吉の箭弓一揆(ひめん かきつのやきゅういっき)』のアフレコです。

実は同月1日に予定されていたのですが、体がどうにもならなくて延期してもらっていて。ちょうど放射線治療開始前、脱水と血圧低下で入院し、4日目に退院した頃のことでした。

久しぶりに現場に現れた僕のやつれた姿は、やはり衝撃的だったようです。ただでさえガリガリなのに、3ヶ月で11キロも痩せてしまったのだから、無理もありません。

闘病は伏せていたため、事情を知らずに心配するスタッフに、

「若い頃は、浅丘ルリ子か小倉一郎かって言われてたんだよ」

そう言って笑い飛ばしたら、「小倉ちゃんはケロッと面白そうに話すね」ってみんなにウケました。

なるべく元気いっぱいに振る舞っていたけれど、実は、アフレコ中は声を出すのもやっとでした。確かに抗がん剤の副作用は感じなかったし、ステージ4の肺がんなのに咳き込むこともなかった。だけど、まだ背中の激痛は続いていて、ほとんど食べられなかったんです。

痩せすぎちゃって、お腹の底から声が出せない。ひとセリフ、ひとセリフ吹き込むのが精一杯でした。