目を開けて、俺の顔を覚えて

「君が加害者にされた行為を、再演する」

要するに、加害者(実父)から受けた行為をSが行うことにより、Sとの行為をより強く私の記憶にとどめる。結果、加害者から受けた記憶が恋愛対象者との思い出として改ざんされ、後遺症は改善する。そういう理屈だった。

当然のことながら、こんな治療法は愚の骨頂である。切り開いた生傷に塩を塗り込むようなもので、治療の効果なんて期待できるわけもない。それなのに、私は従った。彼が少しでも嬉しそうな顔をしたり、反対に脅すような真似をすれば、もっと早くに彼の異常性に気づけただろう。

だが、Sはあくまでも冷静で、シナリオをなぞるように事を進めていった。その態度が、当時の私には専門家のそれに見えた。

私の体をまさぐる指が、Sのものなのか、父のものなのか、途中からわからなくなった。叫び出しそうになると、Sはそっと私の口に手を当てて押しとどめた。「目を開けて」と彼は言った。

「目を開けて、俺の顔を覚えて」

どこまでも自分を信じている人間の目は、きれいな反面、なんて恐ろしいのだろう。そう思ったけれど、口に出す勇気はなかった。