性虐待の再演により壊れた心
私が告白した被害内容を書き留めた大学ノートを見返しながら、彼は何度も「違うところがあったら言ってね」と言った。「辛かったら言ってね」とは、決して言わなかった。
彼はわざわざ玄関ドアの向こうに待機し、「扉を開けて自室に入ってくる父」の行動を再現する徹底ぶりだった。夜間、ギイ、と扉の音が鳴るたび、今でも私は跳ね起きる。夜に開く扉から、優しいものは入ってこない。
ぎしぎしと鳴るベッドのスプリング音が不快だった。「これで合ってる?」と確かめるSの声が不快だった。彼が達する速さが父のそれとズレるたび、「もう一度やり直させて」と言われるのが不快だった。
何もかもが不快で、私は彼を愛していなくて、こんなことをしても治るわけがないとどこかで思いはじめていたのに、私は呆けた表情のまま頷いてばかりいた。首は横に振ってもいいのだと、子どもの頃に誰かに教えてほしかった。