大映の永田社長は大言壮語で鳴らした人で、愛称は「ラッパ」。『羅生門』『雨月物語』『地獄門』などが世界的に評価を受け、映画界の父と言われた。そのラッパ社長の眼鏡に適った篠田さん。

――いやぁ、水着になれとかカメラの前で笑えとか言われて、多分ひどい笑い方をしたと思うんですけど、永田社長が僕を選んでくださったんですね。

入所が決まると養成期間が半年あって、一流の講師の方々の講義を受けました。それまでの自分は、学校から帰るとカバンを放り出して近くの公園で草野球とかして育ちましたから、養成所に入って初めて、仲間からの刺激で読書をしたり洋画も観るようになって。ですからこれが最初の転機かな、と思います。

高校のほうは、映画との両立は認められなくて、やむなく中退しました。

養成期間が終わって、最初に役がついたのは、森鴎外原作の『雁』という、池広一夫監督の作品で、酒屋の小僧の役(笑)。若尾文子さんが小沢栄太郎さん演じる高利貸しのお妾さんの役で、僕は小鳥の籠に蛇が絡まっているのを取ってあげる一瞬の出番なんですが、カチカチに緊張しましたね。若尾さんが思いを寄せる学生の役は、山本學さんでした。