深作 突然お母さんがいなくなると父親と二人暮らしですよね。
五社 思い出したくもないですね(笑)。その頃、思うように作品を作れなくなっていた父は、どん底の状態。飲み屋に入り浸って、帰って来ては家でボヤを出したり、いろいろ大変でした。
深作 お母さんの借金は巴さんにものしかかってきたとか。
五社 ええ、ろくに大学にも行かずにアルバイトに明け暮れる、暗い青春時代を送っていました。そんな中、バイト先に向かう途中でバスにはねられて。当時は気持ちも弱っていたから、死にたいと、ちょっと思ったのかもしれない。
奇跡的に命は取り留めましたが、頭蓋骨陥没骨折で10日間は昏睡状態。意識が戻っても言語障害に陥っていて、言葉が出てこないのがつらかった。
深作 その時の五社さんの、父親としての気持ちを思うと……。
五社 もし助からなければ、父は私の後を追って死ぬ覚悟をするくらい、自分を責めてました。そんなことがあったせいか、母がいなくなったあたりから父の映画が大きく変わりました。
それまでアクション映画を撮っていたのに、父が再起をかけた映画『鬼龍院花子の生涯』(82年)からは、自分の人生そのまま、感情移入するように撮り始めたんです。しかも、それまでは添え物だった女優を主人公に据えて。
深作 80年代から日本の映画界は家族映画や女性映画が主流になってきたから、うちの親父も監督としてどう生きていくのか、すごく苦しんでいたようです。その転換期の作品が、五社さんは『鬼龍院花子の生涯』であり、親父の場合は『火宅の人』なんだろうな。
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