演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける名優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が聞く。第20回は俳優の佐藤浩市さん。父である三國連太郎さんに連れて行ってもらった、撮影現場が原風景と話す佐藤さん。子どもの頃は、役者になんて絶対なるもんかと思っていたそうですが――(撮影:岡本隆史)
「俳優には絶対なるもんか」
暗い人物なのかと思うとふとこぼれる笑顔がチャーミングで、敵役でも心は純粋。そういうひと筋縄ではいかない役柄を演じて輝くのは、父である三國連太郎以来のお家芸なのかもしれない。
そして時々、監督の指示そのままには従わない、という噂を漏れ聞くのも、父と共通している。さて、率直に3つの転機を語ってくれるのだろうか。
――僕にとっての原風景は、四つか五つの頃、父が連れて行ってくれた撮影現場。その頃は映画の最盛期でしたから、スタジオが多くて、両側にズラーッとシンメトリーに建造物が並んでいる。そんな風景は日常では考えられないわけで、強烈な印象でしたね。
僕の名前も父が非常に安直に、稲垣浩、市川崑と二人の監督からつけておいて、晩年は両方と仲が悪かったんで、何のために名前をつけたんだよ、っていう。(笑)
監督の言うことを素直に聞かないというのも、父を何気なく見てて……。まぁ、父も僕も、演者としての主張は強いタイプですね。そういう生き方のほうが正しいんだと、勝手に解釈しちゃった。
後で、そういうものではなかったと感じることもあったけど、自分ではもう軌道修正できなくて。感じたことはとりあえず口に出してしまう、っていうふうになってしまいましたね。