陽だまりのような存在に映る

しかし、グルーミングをする性加害者は、子どもに対して禁止や制限をする言葉は用いません。「そうなんだ」「つらかったね」「君は悪くないよ」といった言葉を繰り出し(無条件の肯定的関心)、「受容・傾聴・共感」のスキルを総動員します。

日々の生活において親の注意や声がけを「口うるさい」と感じる子どもにとって、そのような言葉をかけてくれる大人は、まるで陽だまりのような存在に映ることでしょう。

大人に比べて人生経験も浅く、判断能力が未熟な子どもに、その陽だまりの向こうにはどのようなリスクがあるのかは想像できません。

また、オンライン上では「ストレスがたまる」「気持ちが落ち込む」など悩みを打ち明けた子どもに対して、加害者は「セックスをするとストレスが和らぐよ」など、大人からすると至極いいかげんに性的な話題をもちかけることもあります。

さらに、オンライン上のやりとりを経て、実際に子どもと顔を合わせるようになってからも、彼らは初対面でいきなり性行為に及ぶことはあまりありません。

最初は喫茶店やカラオケボックス、ゲームセンターなど、子どもや若者が好みそうな場所を選び、信頼感を醸成して、子どもを懐柔していくわけです。子どもに勉強を教えることに長(た)けている者は、宿題を見てあげることもあります。

もちろん彼らはその裏で、周到に性加害を行うタイミングを見計らっているのです。

※本稿は、『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。


子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(著:斉藤章佳/幻冬舎新書)

子どもへの性加害は、心身に深い傷を残す卑劣な行為だ。

なかでも問題なのが、顔見知りやSNS上にいる“普通の大人”が子どもと信頼関係を築き、優位な立場を利用して性的な接触をする性的グルーミング(性的懐柔)である。

「かわいいね」「君は特別だ」などと言葉巧みに近づく性的グルーミングでは、子ども本人が性暴力だと思わず、周囲も気づきにくいため、被害はより深刻になる。

加害者は何を考え、どんな手口で迫るのか。子どもの異変やSOSをいかに察知するか。性犯罪者治療の専門家が、子どもを守るために大人や社会がすべきことを提言。