リクライニングチェアにバンドを引っかけるなど方法はアナログだが、これも患者の実体験や提案から生まれたものだという。この上に毛布をかけ、手足は、抗がん剤による末梢神経障害(しびれ)予防のために手袋などで圧迫する(撮影:本社・中島正晶)
乳がんの再発予防治療として用いられる抗がん剤。しかしその副作用で、投与から数週間ほどで頭髪などの体毛がほぼ抜けてしまう人は多い。国立がん研究センターが行ったアンケート調査でも、乳がん患者にとって、治療に伴う脱毛が最大の苦痛であることが報告されている。そんななか、脱毛への唯一の対策である「頭皮冷却療法」が4年前に日本でも承認された。そこで都内で多数の治療実績を持つ虎の門病院を取材。具体的な治療内容とともに、現場の医療スタッフや治療を受けて喜ぶ女性たちの話を聞いた(撮影=本社・中島正晶)

<前編よりつづく

病院スタッフも患者も、試行錯誤を重ねて

頭皮冷却療法は、頭皮を冷やして血流を妨げるという、いたってシンプルな方法だ。しかし頭皮全体を隙間なく、確実に冷やさなければ効果は出ない。まずはどのように冷却が行われているか見ていこう。

院内美容室のスタッフが、冷却効果を高めるため、髪に水をスプレーして濡らす。ダメージを防ぐクリームを塗り、顔まわりをガーゼで保護してから、冷却液が流れるチューブでできた専用キャップをかぶせる。その上にシリコン製のヘッドギアをかぶせ、2人がかりで何本ものひもを強く引き、頭に専用キャップを密着させる。

治療はリクライニングチェアに座った状態で行われる。抗がん剤投与の30分前から冷却が始まり、約2時間の抗がん剤投与中、投与終了後も90分、休みなく冷却が続く。頭皮を冷やすこと自体に健康面への悪影響はないが、4時間座ったまま、頭を強く締めつけられるので、人によっては頭痛や吐き気、あごの痛みなどを伴う。

「導入時はこうした症状への対策も毎日手探りでしたから、痛みや吐き気、寒さに耐えきれず、中断する方も数名いました」(長岡さん)