2人がかりでヘッドギアを締めつけていく。あごひもが食い込まないようにタオルで保護。それでも痛みが起きるため、あごひもを三方向からバンドで引き、あごとの間に強制的に隙間を作る

寒さ対策に電気毛布やホットパックを使い、抗不安薬でリラックスできるようにするなど、現在はかなり苦痛を軽減できている。また、抗がん剤治療に伴う包括的なケアは、看護師や薬剤師、美容室スタッフも一緒になって行う。

「頭に触れただけでバラバラと髪が抜けていく抗がん剤特有の脱毛は、どれほどつらく、苦しいことか。ご家族には不安な顔を見せられない、という気丈な患者さんが多いので、できるだけ私たちがつらい気持ちを受け止められたら、と考えています」と話すのは、院内美容室スタッフの佐野ゆかりさん。治療時に髪の状態を見て、ヘアケアに関するアドバイスもする。

興味深いのは、治療を経験した患者から、「この先、治療を受ける人のために」と、苦痛を軽減するためのアイデアが多数寄せられていることだ。

前出の幸田さん、小野さん、山下さんが治療を受けたのは、虎の門病院が頭皮冷却の症例数を重ね、現場スタッフの経験値が上がってきたタイミングだった。そのせいか、治療に伴う苦痛よりも、治療中の手厚いケアに3人は感動したと話す。

「専業主婦として育児はもちろん、夫の両親と私の親の介護もしてきましたから、家族を心配し、ケアするのが当たり前の人生だったんです。でも頭皮冷却療法を受けている間は、主治医や看護師さん、美容室スタッフの方たちが、治療が少しでもつらくないように親身になって心配し、手を尽くしてくださる。はじめてケアされる側になったことはとても新鮮でしたし、むしろ治療を受けるのが楽しみなほどでした」(山下さん)