左下は虎の門病院で作られた頭皮冷却療法のイメージキャラクター。院内には、患者と医療スタッフが交換したメッセージが貼られていた

マンパワーの不足が普及の足かせに

虎の門病院ではガイドラインに従い、根拠が証明された乳がんの再発予防のための抗がん剤治療に限定して、頭皮冷却療法を行っている。それ以外のがんや再発したがんに対しても厚生労働省の承認は得られているが、臨床試験のデータがないため、ガイドラインではまだ勧められていない。また白血病、リンパ腫など、頭皮に転移する可能性のある全身疾患についても対象外だ。

「日本人女性にとって、乳がんは最もかかる頻度が高く、そして闘いようのある疾患です。治療後の人生を有意義に過ごしていただくために、患者さんのニーズに応えたいという思いで、導入に踏み切りました」と田村医長は話す。

病院のサイトで頭皮冷却療法に関する紹介ページを設けると、ほかの施設で手術等の治療を受けた患者から、抗がん剤治療だけでも虎の門病院で受けられないか、と問い合わせがくるようになった。

「ただ、院内の患者さんだけですでに手一杯な状況。心苦しいのですが、いまはお断りせざるをえない状況です」(田村医長)

現在、頭皮冷却療法を受けられるのは全国で約70施設。脱毛を理由に抗がん剤治療を拒否する患者もいるなか、脱毛を防ぐ治療が確かに存在しているのに、頭皮冷却療法の普及が進まない最大の理由が、マンパワーの不足だ。