やや旧聞に属するが、先日八月末のスーパームーン事件で私は焦った。年に一度のスーパームーンだという。なんとしても見届けなければ。いったいどこらへんに巨大な月は現れるのだろう。

夜の九時過ぎ。遅めの晩ご飯を済ませ、バルコニーから夜空を見上げると、

「あ、いた!」

いつもよりたしかに大きな満月がビルとビルの間に堂々と輝いているのをようやく発見。

この美しい姿を記録しておかなきゃ。スマホを探しに室内へ入ると、ついテレビに気が向いた。話題のドラマが佳境を迎えている。これは観ておかねば。ドラマを観ながら部屋の片づけをしたり爪を切ったりするうちに、月のことが頭から離れた。

ドラマが終わってハッとしてバルコニーへ出て月を探したが、いない。どこへ消えた? おそらくビルの陰に隠れたのだろう。しばらくすればまた姿を現すさ。

書斎にこもり、パソコンに向かって仕事を始める。そしてまた、「そうだ、月はどうなった?」と窓の外を見遣ると、まだいない。もしかして隣のビルの裏に入ってしまったか。

またパソコンに視線を戻し、原稿書きをするうちだんだん眠くなってきた。時計を見るともはや十二時近い。そろそろ寝るか。諦めてベッドへ潜り込む。ベッドに横たわった状態で夜空を見上げ、月を求めたが、いつの間にか寝てしまった。

が、夜中にハッと思い出し、窓のそばへ近寄る。もう沈んだあとか。西の方角に目を遣ると、おお、いらっしゃいましたよ。空の高い位置に煌々と月が輝いていた。時計を確認すると午前二時である。美しい。