アリに頼んだのが間違いだった

佐藤 「アリとキリギリス」の話では、そもそも餌を蓄えているアリにお願いに行くという発想自体が、新自由主義的ですよね。

池上 本来はセーフティネットがあって、そこに頼みに行くのが筋でしょう。キリギリスを拒絶したアリの言い分も、わからないではありません。彼らにも生活があるし、冬を越さなければならないのだから。

『グリム、イソップ、日本昔話-人生に効く寓話』(著:池上彰・佐藤優/中央公論新社)

佐藤 社会全体の安全網をアリに担わせるというのは、無理があります。だから、アリもキリギリスもちゃんと税金を払って、昆虫界の生活保護のシステムを構築しておくべきでした。

池上 その場合、住民たちを見守る民生委員は誰がいいのでしょうか。

佐藤 クモみたいな肉食系はダメですね。相談に行ったら食べられてしまう(笑)。専守防衛のダンゴムシなんかがいいかもしれません。

池上 冗談めかした話をしていますが、現実社会でも民生委員のなり手不足は深刻です。生活保護についても、仕組みさえよくわからないまま餓死したり、犯罪に走ったりといった事例が、しばしば報告されています。