自助努力の選択肢

池上 ところで、「アリとキリギリス」には、実は冬になればこうなることをわかっていたキリギリスが、アリたちの前で「もう僕は十分歌ったから、死んだら餌にしていいよ」と語るバージョンもあります。

佐藤 遊んでいるようで、人生を達観していた。

池上 アリと「死んだら食べてもいいから、それまで養ってほしい」という契約を結べば、むげに断られることはなかったかもしれません。最近コマーシャルでやっている「リースバック」みたいなものです。ローンの残っている自宅を会社に売って、そこと賃貸契約を結んで住み続ける。

佐藤 「生命保険の買い取り」もそうですね。急にまとまったお金が必要になった場合、普通に保険を解約して返戻金をもらうと、損が出ます。そこで、その保険を丸々買い取ります、というビジネスがあるのです。解約返戻金よりも高い値段で買い取ってくれるうえに、以後の保険料も支払う必要はなし。ただし、死亡保険金は買い取った人のものになります。

池上 これもまたドライなお話ですが、キリギリスには、そんな自助努力の選択肢もあるということになるのでしょう。もちろん、社会的なセーフティネットがしっかり確立されたうえでのお話ですが。

※本稿は、『グリム、イソップ、日本昔話-人生に効く寓話』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


グリム、イソップ、日本昔話-人生に効く寓話』(著:池上彰・佐藤優/中央公論新社)

大人こそ寓話を読み直すべきだ。長く重い人生を軽やかに生きるための知恵が詰まっているのだから……。

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