「黒い川に、ゆうまは?」
「優秀な馬。名前の通りにいろいろ優秀だったのにね。そんな世界に入っちゃって」
 そうか。あたりまえだけど、ヤクザになった人だってそうなる前は普通の人だったんだよね。
「幼馴染みってことは、どれぐらいの? もう幼稚園ぐらいから?」
 頷いた。
「私は保育園だったけれどね。小学中学は一緒。高校は違うしね。あいつも高校は卒業して、それから少し経って暴力団員になったんだけど。でも、それまではちゃんとした奴だったんだけど」
「なんで?」
 何があって、そういう世界に入ってしまったんだろう。
「家庭環境が悪かったとか?」
 さよりちゃんが、首を横に振った。
「お父さんもお母さんも普通の人。お姉さんもいたし。皆が普通の人。ねぇ?」
「そうだね。黒川さん家は、いい人たちだったよ」
 なみえちゃんも知っているんだね。そうだよね。
「ただまぁ」
 どうかね、ってなみえちゃんが続けた。
「ちょっと難があったと言えばあったかね、黒川さんところは。夫婦仲がね、そんなにはよくはなかったはず。いつ離婚してもおかしくはなかったような感じではあったけれどねぇ」
「そんなのはどこにでもある話じゃないの。あいつがそうなったのは、それが原因じゃないわよ」
「じゃあ、なに」
 その黒川優馬さんが、暴力団に入ってしまったのは。
 さよりちゃんは、ちょっと首を横に振る。