「本当のところはわからないわよ。でもね、あいつが昔っから正義感が強くて、なんていうかな、義理堅い?」
「義理堅い?」
「そう。男気のあるような感じだったのは確か」
「え、いい人じゃない」
 正義感があって義理堅くて男気があるなら、全然カッコいい人。そう言ったら、さよりちゃんは考えた。
「どう言えばいいかな」
「そんなにムズカシイ話?」
「難しくはない。簡単な話なんだろうけど。あたりまえだけれども、人はそれぞれ違うわよね? たとえばプロ野球選手だって、みんなそれぞれ性格は違うでしょ」
 それはもう。人間はそれぞれが違う人格を持っている。性格だってそれぞれ違う。
「でも、プロ野球選手には、共通するたったひとつのものがある」
 たったひとつのもの。
「え、なに」
「野球が好きだってこと。野球嫌いだったらプロ野球選手にはなれないでしょう」
「なれないね」
 そもそもなるはずがない。
「ヤクザになる人には皆に共通点があるって話?」
「皆じゃないと思うけど。これは、同じ同級生に聞いた話。直接優馬から聞いた話じゃないからわからないけど。暴力団に入るような人たちは、大抵の場合は義理堅い人なんだって」
 義理堅い人。
「深く考えるとややこしくなっちゃうけど、要するに優馬は、義理を重んじて暴力団に入ったの。悪いことをして儲(もう)けようとか、乱暴者だとか、そういうんじゃない。単純にその組の偉い人に助けてもらったんだか、なんかあって、その人のためにヤクザになったって感じ」
 うーん?
「悪い人じゃないってことね? その優馬さんは。たとえば学生の頃から不良でケンカばかりしていたとか、カツアゲとかしていたとか、そんなんじゃなくて」
「違うね。むしろ逆。正義感が強かった。クラスメイトのを助けるために不良と喧嘩(けんか)していたこともあったわよ」
 そんな人が義理を重んじてヤクザに。