「勝ちたい」ではなく「絶対に負けない」

照ノ富士は、初日に登場した時は胸の筋肉が落ちていて、どうなることかと思った。

後半戦が進むほど、気合いのせいか、準備運動のせいか、顔が真っ赤、体も真っ赤になった。照ノ富士は真っ赤になると強いことが判明した。

私は、花道に置いてある力士が自分の相撲を確認できるモニターについて、連日見ていた照ノ富士の姿に注目していた。力士は手に巻いたテープをほどきながらモニターを眺めたり、付け人と眺めたりしている。負けた時には見ない力士もいる。照ノ富士は連日、眺めるではなく、食い入るように見ていた。

調子は万全ではないが、「勝ちたい」ではなく「絶対に負けない」という、照ノ富士の心の姿勢と研究心が伝わってきた。横綱になる人は精神力も研究心も頭脳の明晰さも、ほかの力士とは違うのだと思った。

千秋楽の向正面解説の舞の海さんと実況の太田雅英アナウンサーが、場所前の照ノ富士は休場が続いたため、稽古で5番か6番とっても息切れをしていたこと、稽古の何10番よりも本場所の1番が照ノ富士を復活させたことを話していた。