愛猫に教わったこと

僕が今、心配なことですか? それは虫の急激な減少です。ドイツの自然保護区を対象にした調査によれば、この27年間で飛翔性昆虫の総量が76%も消えた。もちろん農薬や殺虫剤の影響も考えられますが、人間がその営みのなかで環境を自分勝手にいじってきた結果ではないかと思います。

ある種の祟りといってもいいかもしれない。虫が減ると、それを食べる動物が減り、このままでは地球は生き物が住めない世界になるんじゃないか。

じゃあ今、自分に何ができるだろうかといえばわからない。寝る前にそんなことを考え始めると、1、2時間はあっという間に経ってしまいます。眠れないときは、いっそ起きて原稿を書いたりする。

そもそも年をとると、なかなか寝つけないものです。とくに虫のことばかりやっていると肩が痛くて。このあいだ、体圧を分散するマットレスというのを知って「ほしいな」と言ったんだけど、和式の布団信者の女房から反対されて(笑)。どうしたものかと悩んでいる次第です。

飼い猫の「まる」のこともよく考えます。2020年12月に18歳で死んでしまいましたが、まるは、「生きているとはどういうことか」を考えさせてくれた存在で、僕の《ものさし》だった。今でも日当たりのいい場所を見ると、まるがいないか探してしまう。

猫は、その瞬間瞬間を生きています。僕も真似して、日向ぼっこをしているまるの脇へ寝っ転がったことがあって。鳥やリスが鳴いている。時間とともに日差しが移ろい、何もないようで変化がある。

いつも何をしているんだろうと思っていたけれど、まるはそれらを全身で味わって自足していたんです。自分はなんて頭でっかちで理屈ばかりこねているんだろう、と気づかされましたね。生きるうえで、自然をものさしにすることは大事なのです。

先日、箱根の別荘で過ごしていたら、鹿の鳴き声が聞こえてきたんです。「鹿鳴館になったよ」と、まるに報告しないとね。

【関連記事】
養老孟司86歳「医学部も解剖学に進んだのもすべてなりゆき。人生はくじみたいなものだけど、仕事でもなんでも、やらなきゃいけないことには意味がある」
養老孟司「結核で亡くなる朝、父はなぜ文鳥を放したのか。3000体の死体を見て、人生は些細な違いの寄せ集めだと感じるように」
養老孟司「〈知っている〉と〈わかる〉は違う。現代の私たちは自然から遠ざかり、身体的感覚を伴う〈わかる〉を忘れかけている」