現世でしばられていたものから解き放たれる

ワンちゃんが再び元気を取り戻すきっかけを与えてくれた車いす。

よく聞かれるのがワンちゃんを荼毘(だび)に付すとき、「大切にしていたものや好きだったものを棺に入れてもいいのか」ということです。このワンちゃんの場合もそうでした。

最後の数年間は足代わりとなり、なくてはならなかった車いすを一緒に棺に入れてあげたいと、飼い主さんはおっしゃいました。

こういうことはとてもよくあります。

たとえば心臓病だったから、心臓のお薬を一緒に入れてあげたい、いちばん好きだったおもちゃを入れてあげたい、散歩に使っていたリードを入れてあげたい、など。

でもこうしたお願いはすべてお断りしています。なぜならそれらのものは「現世」のものだからです。

動物も人間も同じですが、肉体があるからこそ苦しみが生じます。もちろん、肉体があるからこそ味わえる幸せもありますが、病気になったり、年をとったりすることで、苦しみや不自由も生じます。

火葬とは、単に遺体を焼いて遺骨を拾うということではありません。

火葬をして荼毘に付すということは、美しい光となって現世でしばられていたものから解き放たれること(写真提供:Photo AC)

火葬をして荼毘に付すということは、美しい光となって現世でしばられていたものから解き放たれること。車いすを外し、薬を手放し、今まで不自由だった、苦しみであったいろいろなものから解き放たれるときなのです。

ですから、車いすが向こうに行っても必要になっては困りますし、心臓病の薬が必要になっては困るのです。