新しい旅支度

思い出の品でも同じです。思い出の品を入れてしまうと、「もっとこの世にとどまりたい」「みんなと一緒にいたい」という気持ちになってしまいます。

この世での苦しみだけでなく、喜びも楽しみもすべてから解き放たれ、この世への執着をなくすということ。そして新しい旅支度をしてあげることです。

たとえるなら、小さなお子さんを一人で旅に出すときに、

「お母さんの匂いのするTシャツを持って行きなさい」

「これ、お母さんの髪の毛だからお守りにしてね」

などと言うでしょうか。

もし本当にそんなことをしたら、ことあるごとにお母さんを思い出してホームシックになり、お母さんに会いたくなりますよね。

海外に留学するときに、日本のものをいっぱい持って行ったら日本が恋しくなりますよね。日本食をいっぱい持たせたら、「やっぱり日本がいいな、帰りたいな」となりますよね。

それではいけないよ、ということです。

この世への執着をなくし、あの世で本当に幸せに、自由に楽しくいられるようにしてあげること。それが遺された者ができることです。

※本稿は、『愛犬が最後にくれた「ありがとう」』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

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愛犬が最後にくれた「ありがとう」』(著:小島雅道/青春出版社)

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