できることはたくさんある
和田 最近は、認知症になったご本人が顔を出して、どんな思いで、どんな生活をしているのか発信することが少しずつ増えてきました。それを見ると、認知症になってもできることはたくさんあります。
自分でもの忘れがあることを自覚して、買い物に行くときは何を買うかメモを活用したり、スマートフォンのリマインド機能を活用して薬の飲み忘れを防いだり、といった工夫をしている認知症の人もいるのです。
また、長年の経験で身につけた技は認知症になっても忘れないことが多いので、すごい技を持っている町工場の職人さんや、農業や漁業を長くやってきた方は、若い人には真似のできない熟練の仕事ぶりを発揮したりします。
たとえ、その日が何月何日か正確に答えられなくても、9+9の足し算ができなくても、得意な能力はすぐには失われません。
認知症医療の第一人者に、長谷川和夫先生という医師がいました。「長谷川式認知症スケール」という早期診断の検査テストを考案したり、「痴呆症」という侮蔑的な病名を現在の「認知症」に変えたことで知られています。
長谷川先生は、88歳のとき認知症であることがわかりましたが、認知症であることを公表し、もの忘れはするけれど、こうして話せるんですと日本各地を講演して回りました。
「認知症はちっとも不幸なものではない」と、身をもって示されたのです。