和田先生「認知症になったからといってすぐに『何もわからなくなる』ということはない」(写真提供:Photo AC)
厚生労働省が公開している『令和2年版 厚生労働白書』によると、2040年の平均寿命は男性83.27歳、女性89.63歳と推計されるそう。そこで今回は、老化を受け入れて「うまく老いる」コツを、評論家の樋口恵子さんと精神科医の和田秀樹先生の対談形式でお送りします。和田先生いわく、「認知症になったからといってすぐに『何もわからなくなる』ということはない」そうで――。

認知症を必要以上に恐れすぎない

樋口 認知症も気がかりです。2025年には認知症の人が700万人となり、65歳以上の5人に1人が認知症と言われています。こういうデータを聞くと、高齢者はもの忘れがあるたびドキッとするんじゃないでしょうか。

以前、脚本家の橋田壽賀子さんが「認知症になったら安楽死したい」と発言して物議をかもしました。認知症への不安と、どう向き合っていくかというのも課題になっていますね。

和田 みなさんが認知症を恐れるのは、「認知症になったら、何もわからなくなる」「認知症になったら人生おしまいだ」と思っているからだと思います。はっきりと言いますが、認知症になったからといってすぐに「何もわからなくなる」ということはありません。もちろん、「人生おしまい」でもありません。

認知症の6割を占めるアルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞に脳のゴミのようなアミロイドβというタンパクなどが、10年、20年という長い時間をかけて沈着し、脳が変性していくことにより発症するとされています。

たいていの場合、進行はゆっくりなので、診断されてすぐ突然、生活が一変するということはありません。自分の名前がわからなくなったり、人と会話が成り立たないといった、コミュニケーションがとれない状態に陥るのは、発症から少なくとも5年ほどかかると言われています。

認知症を「病」と考えるより「老化」のひとつと考えたほうがいい、と私は思っています。

2023年9月に、脳のゴミを取り除くというアルツハイマーの新薬の製造販売が承認されました。日常生活の機能回復や症状の進行を多少遅らせる効果はあるとされていますが、軽度の場合が対象で、適用になる人が限られるなど、すべての認知症の人に効果があるとは言えません。

現時点ではできるだけ生活を変えず、今までできていたことを続けていくことが、進行を食い止める最もいい方法です。料理ができる人は料理を、ガーデニングが好きな人はガーデニングを、友人とカラオケに行っていた人はそれを続けるなど、生活を楽しむことがいちばんの薬です。