どうあがいても這い上がれない地獄がくる

「勝ってますか」

「そりゃあ敗けてますよ」

「あの……」

「心配しないで下さい。勝つ時は、たくさん勝ってます」

「それでも」

「損はしてませんよ」

「そんなものですかねえ」

「今週は、トータルでプラスです」

「やりましたな」

「これのいい所は、いろんな人と付き合えることです。いいものを教えて貰ったと、ボクは感謝しています」

被害僅少(きんしょう)で済んでいるとはいえ、心配は尽きなかった。初心者のうちはまだいいのだけれども、守りを覚えてくると、一度か二度、どん底がやってくる。どうあがいても這(は)い上(あ)がれない地獄がくる。

一四七、二五八の筋などが分かってきて、字牌(ツーパイ)の頭落としをしてしのぐようになると、

スピードがなくなるだけに、ベテランにあしらわれるようになる。

※本稿は、『ムツゴロウ麻雀物語』(中公文庫)の一部を再編集したものです。


ムツゴロウ麻雀物語』(著:畑正憲 /中公文庫)

動物との交流も麻雀も命がけ。「勝負師」ムツゴロウと卓を囲んだ雀士たちの、汗と涙がにじむ名エッセイ。〈対談〉阿佐田哲也 〈巻末エッセイ〉末井 昭