ヒントは目の前にある
海外視察に行く時は、よく娘の明美が同行しました。
百福は明美をたいへん可愛がっていて、高校生になってからも、手をつないで歩いていたので、一緒にいた友達から「まるでお友達みたいね」と笑われるほどでした。
明美が十八歳、甲南女子大学の一年生の時に、アメリカに行った帰りの飛行機で、百福が思いがけない発見をしました。
百福はちょうど、カップヌードルのフタをどうするかで悩んでいました。通気性がなくて、ぴたっと密着する素材を探していました。客室乗務員がくれたおつまみのマカデミアナッツの容器を見て、はっと驚きました。直径四.五センチ、厚さ二センチほどのアルミ容器には、紙とアルミ箔を張り合わせたフタがぴったりと張りついていたのです。
「これは使える」
もう一つもらってポケットに入れ、研究のために持ち帰りました。
このフタには接着剤が使われておらず、百五十度を超える高熱をかけて押さえつけるだけで接着できる「熱蒸着」という技術が使われていました。当時、まだ日本にはこのような方法はありませんでしたが、さっそくカップヌードルに採用され、密閉度を高めて長期保存に役立ちました。
百福はいつも「ヒントは目の前にある」と言っていました。百福の子どものような好奇心がここでも役立ったのです。
この時持ち帰ったマカデミアナッツの容器は、仁子が大切に保管していましたが、現在はカップヌードルミュージアム大阪池田に記念物として展示されています。