カップヌードル

百福は海外にインスタントラーメンをどう売り込むかで頭がいっぱいでした。

ロサンゼルスのスーパー、ホリデーマジック社のバイヤー達は、百福が差し出したチキンラーメンを見て、首をかしげて困っていました。麺を入れるどんぶりも、麺をつかむ箸も、アメリカにはなかったのです。

そこで持ち出したのがコーラなどを飲むための紙コップでした。チキンラーメンを二つに割って紙コップに入れ、お湯を注いでフォークで食べ始めたのです。食べ終わった紙コップはポイとゴミ箱に投げ捨てました。目からうろこが落ちました。

「欧米人は箸とどんぶりでは食事をしないのか」

そんな当たり前のことに気が付いたのです。

市場調査を終えて、百福はカリフォルニアのディズニーランドに行きました。

『チキンラーメンの女房 実録 安藤仁子』(著:安藤百福発明記念館/中央公論新社)

そこで、アメリカの若者たちが歩きながら紙コップでコーラを飲み、ハンバーガーをほうばっている姿をじっと見ていました。

「日本でも、食べ物をこんな風に自由に楽しむ時代がきっと来る」

頭の中に、フォークで食べるカップ麺、すなわち「カップヌードル」のアイデアが生まれた瞬間でした。