とばっちりを受ける仁子

百福は怒りました。

「そんなことをさせるためにおまえを社長にしたんではない」

宏基の真意はなかなか理解してもらえず、二人の間にわだかまりが残りました。家に帰っても、議論、口論が絶えず、あげくの果てに、「おまえが社長をやめるか、おれが会長をやめるかどっちかだ」というところにまで話が行ってしまうのです。横でやり取りを聞いていた仁子は「もういい加減になさいな」と言ってあきれたように寝てしまうのでした。

宏基は自分の性格を「根は正直だが、あまり素直ではない」と言います。

自分教の百福と素直でない宏基との関係で、いつもとばっちりを受けるのはくそ教の仁子でした。仁子の手帳とは別に、仁子が晩年に書きつづっていた日記帳(以下日記)があります。その中で、しきりに百福と宏基の口論を嘆いています。

「夜、主人が宏基の不出来なこと、わたしへの不満、二時間に及ぶ。一番の息子なのに、なぜあのようにクソカスに言うのか。わたしが甘えて育てたからだという。そんなに気に入らなければ、好きな人を社長にすれば。八月のわたしの誕生日はもうお祝いは結構。あの言葉のきついのは本当に悪い」(原文ママ)

家族だからといって、あまりにも言葉遣いが汚いことを怒っているのです。この話を聞いた明美(長女)が電話で百福をたしなめました。

すると、「明美の電話の後、主人あやまる」と日記に書きました。

家族を一回りして、ようやく話は落ち着くところに落ち着いたのです。