同じテーマを描くもう一つのドラマ
一方、今季放送され、おっパンと同じく昭和と令和の価値観の違いを描いているドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)は、その点でおっパンと真逆だったように思う。昭和から令和にタイムスリップしてきた小川市郎(阿部サダヲ)が主人公なのだが、市郎はセクハラ発言やパワハラを平気でやってしまうザ・昭和のおやじ。ドラマ全体を通して、不適切な言動を繰り返す市郎が、娘思いで人情のある人として描かれることで、まぁ言動はハチャメチャだけど憎めないいいやつ、という感じに持っていかれる。決してその言動が正面切って裁かれることはない。そんなドラマを貫く雰囲気が、明確に言語化されたシーンがある。
9話で、市郎の孫・犬島渚(仲里依紗)が職場の部下からいいがかりに近いかたちでパワハラを訴えられ休職することになる。そんな折、渚が同じマンションに住む人のゴミ出しの仕方を注意すると、相手から「そんなだからパワハラで訴えられるんですよ」と言われてしまう。それを見ていた渚の父・犬島ゆずる(古田新太)は「そんなんだからってどんなだ」と割って入る。
そしてこう続ける。「あんたに娘の何が分かる。渚はパワハラなんかしてない。絶対にしてない。もし仮に、万が一、ワンチャンそうだったとしても、俺にとってはたった一人の大事な娘だ。34年間見てきた。ほんの一部分だけ見て、切り取り、パワハラだなんて決めつけるな。俺の娘を社会の基準で分類するな」。そして、その後のミュージカルシーンでこんなセリフが登場する。
「パワハラ上司も鬼じゃない」
「セクハラ上司も人の子だ」
この場合、渚が部下にした行為が本当にパワハラだったのかは断片的な情報からは判断しづらく、理不尽に休職を強いられた可能性もあった。だから、父親が渚を守りたい気持ちは理解できる。しかし、ハラスメントの議論に、誰かの娘だとか、加害者にも親がいるだとか、加害者も人間だとか、そんなことが何の関係があるのだろう。
例えばある界隈でハラスメントが起きた時、加害者の周辺の人が、加害者にも妻や子どもがいる、訴えるのはやめろ、と被害者を責めるのは実際に少なからずあることだ。むしろ被害を訴えることで加害者やその家族の人生を壊した被害者が悪い、と非難の対象になることすらある。
ハラスメント加害者にも家族がいる、加害者だって誰かの子、同じ人間だ、なんて言い草は、加害者擁護や被害者を非難し追い詰めるために使われる常套句なのだ。
だから、酷い言動をする人だって人間味があって憎めないところがある、家族や愛する人がいる、みたいな“人情コーティング”に危うさを感じずにはいられない。いくら憎めないところがあろうと、家族がいようと、それでその人の有害な言動がなぁなぁにされるのは違うだろう。
だから、余計におっパンが示した、才能や人格と加害は別である、という潔い指針がより尊く感じられたのだ。