「夏は夜」。漆黒の闇に浮かぶ月明かりの美しさ
『夏はよる。月の頃はさらなり、やみもなほ、ほたるの多く飛びちがひたる。また、ただひとつふたつなど、ほのかにうちひかりて行くもをかし。雨など降るもをかし。』
灼熱の太陽の照る真夏の昼は、平安人にとって苦手だったのだろう。涼しさの増す夜がやはりいい。今と違って、土はひんやりして、障子・木など自然素材の家は、夜になれば過ごしやすかったに違いない。
とりわけ月の冴えわたる夜、闇の夜の風情もいい。
当時は夜になれば、漆黒の闇である。月明かりや、蛍のかすかな光だけでも心に残る。すっと尾を引いてまたたく蛍は、天界の使い。川のそばなどに行かずとも、向こうからやって来た。
私の子供の頃は、まだ戸を開け放つと蛍は、家の中に入って来た。蚊帳(かや)の中に入れると、明け方まで隅で光っていた。平安時代には、もっと数多くの蛍が身近にいたのだろう。