八代亜紀さん

誰に対しても優しい人だった

新田 ヘアメイクをしているときって、八代さんと二人きりになるでしょう。僕にはわからない、二人だけの絆みたいなものがあったんだろうね。だからこそ、八代さんがあなたを離さなかったんだろうし。

大内 私にだけ見せてくださったお顔は、確かにあったと思いますが、とにかくいつも前向きでした。29年の間には、落ち込みそうな出来事も何度かあったのに、全部はねのけて、プラスに変えて。

新田 誰に対しても優しい人だった。高齢者施設を訪問したときは、カメラがまわっていない間も入居者の方の手をずうっと握って話し込んでいたし、信号待ちで近くに赤ちゃん連れがいたら、近寄って必ず声をかける。

大内 女性刑務所の慰問活動も長く続けていらした。お話を伺うと、「男にだまされた」とおっしゃる方が多いんですね。八代さんの歌には、尽くす女性や、女の哀しみを描いた曲が多い。それで八代さんが歌うと、受刑者たちが号泣して、刑務官も私たちもみな泣き出してしまう。

八代さんは、「卒業」という言葉を選んで、「ここを卒業されたら、私は全国で歌を歌っていますから会いに来てください」と語りかけていました。あるとき、コンサート会場の楽屋口で女性が待っていて、「卒業しました」と言ったんです。八代さんは、ピンときたのでしょうね。その方とお話をなさっていました。

口先だけではなく、いつも心動かされて行動し、人とかかわっていたように思います。