〈十八〉
どうやらまねき猫の置物は、ネット通販で買えるらしい。
定番はやはり、小判を抱えた常滑焼か。サイズは何号がいいだろう。
右手を上げているものはお金を招き、左手だと人を招くという。色にも意味があるようで、たとえば白なら開運招福、黒は厄除け、赤は健康長寿、などなど。
そのあたりの設定は、後づけのような気もする。
さらに調べてみると、まねき猫の専門店が浅草(あさくさ)のかっぱ橋道具街にあると分かった。こういうものは絵つけによって顔の雰囲気が違うから、直接目で見て、「これだ!」と思うものを選んだほうがよさそうだ。
明日美は先代のまねき猫を知らないから、求に頼んで買ってきてもらおうか。できれば次の休みにでも――。
「ふごっ!」
ベッドから鼻が潰れたような音が聞こえ、明日美は手にしたスマホから顔を上げる。リクライニングを少し上げた状態で、時次郎はよく眠っている。
日曜日の朝である。ひかりと求が仕込みをしているうちに、着替えを持って病院にやって来た。
時次郎は、明日美が病室を覗いたときからすでに夢の中。ベッド脇に据えられたキャビネットの整理をしていても、起きる気配を見せなかった。
病室は、四人部屋だ。時次郎は窓側なので、カーテンを引いていても日中は暑い。そんな中で、よく熟睡できるものである。
痩せたな――。
寝息を立てる父親の顔を眺め、あらためてそう思った。
時次郎はまだ、生命維持に必要な栄養を経鼻チューブから得ている。口から食べるのとは勝手が違うのか、この二ヵ月で見違えるほど痩せてしまった。
寝たきりで、筋肉が落ちたせいもあるのだろう。頬はこけ、半袖のパジャマから突き出る腕は枯れ枝のようだ。
嚥下能力が戻っていないため、水もまだ飲めない。でもこちらの病院ではマメに唇を湿らせてくれるようで、「水をくれ」と騒ぐことはなくなった。
自分の置かれた状況を理解したのか、それとも諦めただけなのか。ここから出してくれという要求も、近ごろは聞いていない。
一応、回復してきてはいるのかな――。
脳機能がどこまで戻るかは、まだ先が見えない状態だ。ものの分別がつくようになったとき、左半身が動かないという現実を、時次郎はどのように受け止めるのだろう。
むしろ曖昧模糊としたまま時が過ぎたほうが、本人も楽なのかもしれなかった。
時次郎の要介護認定は、まだ申請中。でもこの状態なら、もっとも重い要介護五になるかもしれないという。
「介護施設? それならまず、優先順位を決めなきゃね」
保育園選びの猛者であるタカエに相談してみると、そんなアドバイスが返ってきた。
費用に立地、施設の雰囲気、スタッフの質。リハビリやアクティビティの充実度、医療機関との連携体制。
介護施設を選ぶには、いくつかのポイントがある。そのうちなにを優先するかが、肝となる。
明日美の場合はとにかく、費用と立地だ。